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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)21号 判決 1965年2月16日

控訴人(被告) 文部大臣

被控訴人(原告) 坂本重威

訴訟代理人 片山邦宏 外四名

主文

原判決を取消す。

被控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、当事者双方の平等負担とする。

事実

控訴代理人は本案前の申立として主文第一、二項と同旨の判決を求め、本案につき『原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。』との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張並びに証拠関係は、本案前の主張として次に付加するほか、原判決事実摘示の通りであるから、これをここに引用する。

控訴代理人は、

学校法人紛争の調停等に関する法律(以下調停法と略称する)は、昭和三九年四月三〇日の経過を以てその効力を失つた(同法付則第四項)。従つて被控訴人が本訴において控訴人の行為を取消す旨の裁判を得ても、控訴人はもはや調停を行うことができないから、被控訴人は回復すべき法律上の利益を有しないものと謂わねばならない。よつて本訴は訴の利益を欠くものとして却下を免れない。

と主張し、

被控訴代理人は、

調停法は、その付則第四項により同法施行の日(昭和三七年五月一日)より起算して二年を経過した日にその効力を失う旨定めているので、昭和三九年四月三〇日の経過を以て失効する所謂限時法の一つである。而して右の付則第四項但書は『この法律が効力を失う日前に成立した調停及び当該調停に係るこの法律の規定によるその他の措置に関しては、当該二年を経過した日以後も、なおその効力を有する。』旨規定しているが、調停中の事件・調停法の施行期間中に調停の申立を受理しながら、未だ調停行為に移行しない事件、本件の如く期間内に『調停を行わないこととした処分』を取消す旨の第一審の裁判があつた事件の処理については、何ら定めるところがない。然し調停法はその第一条に規定しているように『学校法人紛争が生じ、これにより学校法人の正常な管理及び運営が行われなくなり、かつ、そのため当該学校法人が法令の規定に違反するに至つた場合において、当該紛争の処理に関し調停その他の措置を定めることにより、学校法人の正常な管理及び運営を図り、もつて私立学校における教育の円満な実施に資することを目的とする。」ものであつて、罪刑法定主義を第一義とする刑罰法規の変更等の場合と異り、限時期限を設けても、その適用の対象はその前後によつて特に異なる処理を必要とするものではなく、それにも拘らず付則に限時法的規定を設けたのは、調停法制定当時政府が名城大学事件に積極的に介入調停することを主たる目的とし、その調停処理見込期間を仮りに定めるに至つたことによるが、立法の形式は特定の事件の処理に限定しているものではない。してみれば調停申立を受理しながら未だ調停行為に移行するに至らなかつた場合や、本件の如き場合には、調停法の失効後と雖も、引続きその終末迄同法によつて調停が進められるべきものであるから、調停法の失効により、訴の利益がなくなつたと言う控訴人の主張は失当である。

と答えた。

理由

学校法人紛争の調停等に関する法律(昭和三七年法律第七〇号、以下単に調停法という)付則第四項によれば『同法は施行の日から起算して二年を経過した日にその効力を失う。但しこの法律が効力を失う日前に成立した調停及び当該調停に係るこの法律の規定によるその他の措置に関しては、当該二年を経過した日以後も、なおその効力を有する』旨規定していて、調停法は昭和三七年五月一日より施行(昭和三七年政令第一七〇号)されたから、昭和三九年四月三〇日までに成立した調停及びこの調停に係る調停法第九条第一〇条の規定による措置に関してはその後もなお効力を有するけれども、その他の関係においては、調停法はすべて昭和三九年四月三〇日限りで失効したものであり、従つてその後は新たに調停を申立てることができないことは勿論、同日迄に調停を申立てたが、受理されなかつた事件や調停手続進行中の事件についても、もはや調停手続を進めることはできないものと謂うべきである。被控訴人は、学校法人紛争を調停によつて解決することは、調停法の失効の前後を問わず、調停法の目的とする私立学校における教育の円滑な実施に資するし、調停法の立法の体裁は特定の紛争の処理に限定されず、一般的規定となつているから、調停法施行中に調停申立を受けた事件については失効後(昭和三九年四月三〇日後)と雖も、調停手続を遂行すべきものであると主張するけれども、若しその通りそれらの事件について調停法失効後もなお調停手続を遂行すべきものであるとするならば、これにつき将来成立することあるべき調停につき、調停法失効前に成立した調停についての付則第四項の規定とならべてこれと同様の規定を設けて、然るべきであるのに、これを欠いていることに鑑みれば、前記の通り解するのが相当であつて、被控訴人の解釈は成法上の根拠を欠くものと謂わざるを得ず、これを採用できない。

されば昭和三九年四月三〇日限りで調停法が失効したのに伴い、調停法によつて与えられた調停申立の利益は消滅したから、これを害されたことを理由とする被控訴人の本訴は、訴の利益を欠くに至つたものと謂うほかなく、これを却下すべきものである。

よつてこれと異る原判決を不当として取消し、行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条第九〇条の各規定に則り主文の通り判決した。

(裁判官 岸上康夫 室伏壮一郎 斎藤次郎)

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